当初からMBAを目指したいと思っていたわけではないが、転機になったのは2008年のリーマンショックだ。
その時、私も周囲の人たちと同様に失業した。私の実績を背景にすればすぐに次の就職先は決まるだろうともいわれたが、リーマンショックの余波は凄まじく、容易には決まらなかった。
転職活動もうまくはいかない。職安や転職サービスを利用して多くの履歴書を出したが、面接にまでこぎつけるのは、ほんの一部。面接しても、多数の応募者が殺到しており競争率は高く、なかなか決まらなかった。
ある日、ようやく実現した面接の中で「あなたは留学したり大学院に進学したりする気はなかったのですか?」と聞かれた。これは意外だった。就職のためのスキルを身に着ける、その為には資格を取得するというのが一般的というイメージだったが、院の話を持ち出されるとは思っていなかったからだ。
私は20世紀の終わり頃に大学を卒業した。当時は院に進んで修士・博士になると一般の就職はできないといわれていた。私が出た法学部では、海外で就職する気がない限り院には進学しない方が良いと、よく先輩が言っていた。「院に行くと就職はできない」と。そのため、進学は考えたこともなかったのだ。就職のために院に行くのは理系、特に工学や化学の世界というのが一般的だった時代だ。
その面接では結局就職できなかったが、その後、友人のネットワークで失業仲間と情報交換をしながらこの話を持ち出してみたところ、文系でも修士を要求する求人があるといったことを耳にした。
もちろん、当時はまだ、院卒はオーバースペックという認識が一般的だったからそういった求人は稀だったと思う。それでも、そんな求人があるのだと驚いた。
また、外資系や国際関係の求人も探したが、語学力だけでは見向きもされなかった。話を聞いてみると、表向きは大卒を募集しているが、必要な専門分野で修士号を持っている人から優先的に面接をしていると言われた。欧米ではそんなに珍しい話ではなく、いずれ日本もそうなるだろうとも言われた。
そんな話を日本でも聞けるとは思ってもいなかった。いよいよ高度社会人を求人する時代が来たのか、と感じたものだった。
もちろん、何の用意もしていなかったから、即進学することはできなかったが、いつかは必要になるのかもしれない、そんな思いを抱いた。
求職活動は簡単に進まなかったが、やがてちょっとした職を都内で見つけて就職。仕事は忙しく、勉強の必要性は徐々に忘れていった。